回収が具体化する前に備えておくべきポイント-総論
債権管理における5つのポイント
債権回収において常に意識するべきポイント(1)資産の把握(2)優先順位の確保については、回収が具体化する前においても重要なポイントとなります。
上記2点を回収が具体化する前の注意点として整理すると、次の5つの債権管理上のポイントを指摘できます。
(1)債権債務関係(成立及び内容)の確認
(2)債務者の属性の確認
(3)債務者の資産状態の把握
(4)違約時の取り決め
(5)担保・保証の設定
詳細は更に次のページで解説しますが、それぞれの項目が意図する内容は概略次のとおりです。
(1)債権債務関係の確認
個人間の金銭の貸借で特に多い話ですが、借用書等も作らず、現金で金銭のやり取りを行うなどして後日その返還を求める場合に、相手方より、金銭を交付した事実自体を争われたり、返済する約束を争われたりすること(「贈与」と主張されること)があります。
事業者間でも、商品の売買や頼まれた工事を行ったものの納期や品質について明確な取り決めがなかったために、納期遅れや品質上の問題を理由に代金の支払を拒まれる場合が多々あります。
支払能力や意思に乏しい相手から回収を行うこと自体簡単ではないのに、加えて相手に請求権の成立自体について争うきっかけを与えてしまえば、一層回収は難しくなります。
事業者間の場合はもちろん、個人間であっても、後日請求を予定している相手との間では、簡単なものでも良いので債権債務関係を明確にした書面を取り交わしておくことが肝要です。
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(2)債務者の属性の確認
債務者の属性(債務者がどこの誰なのか)を確認しておかないと、督促交渉を行うに先駆けてこれらを調査しなければならず、また督促時に全面的に債務を否定されるなどして、具体的な債権回収に入る前段階で大きく躓くことになります。
このような事項を確認することは当然のことのように思うかもしれませんが、事業者間の取引でも徹底されていない実態があります。
確認しておくべき債務者の属性としては、少なくとも債務者の正式名称(氏名)、住民票ないし登記上の住所、連絡先(電話番号)、およびその住所に実態があることを確認しておくことが必要です。
意外に見落としがちなことですが、債権回収において非常に重要な視点として、「その住所地に実態があること」があります。住民票上の住所を苦労して教えてもらったとしても、そこに居住実態がないのであれば、交渉のきっかけとして有効な督促文書を送ることもままなりません。また、実態のない住所地を教えること自体で、取引先としての信頼に大きくかかわり、将来債権回収上のトラブルが生じる事態を避けることにつながります。
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(3)債務者の資産状態の把握
契約時は、最も当事者の利害が合致しており相手方の情報を入手しやすいタイミングのひとつです。この機会にできるだけ多く相手方の資産状況に関する情報を得ておけば、後日、相手方の支払が滞った場合などに速やかに法的手続に移行でき、回収の実効性が飛躍的に高まります。
また、もとより、資産状況を正しく把握しておけば、そもそも支払を滞るような危険な取引先か否かの判断ができ、取引自体を回避したり、取引の規模や支払サイクルなどを考慮に入れてリスクを最小限に抑える工夫ができます。
その上、資産等の情報を押さえることで、貴社(あなた)の優先順位が自ずと高まる結果、支払遅延や不履行の抑止につながる側面もあります。
加えて、詳細な情報を得ておき、これを信頼して取引を行った場合に、後にこれが虚偽であったことが分かった場合、回収交渉と並行して詐欺によって刑事告訴を行う余地が生じます。詐欺による告訴が実現すれば、強力に貴社(あなた)の優先順位を引上げて効果的な回収が実現できる場合があります。
なお、資産状況の変化に柔軟に対応できるよう、契約時に、こちらの求めに応じて資産開示を行うべき義務を定めたり、毎期ごとに決算書を開示する義務を定めたりすることも有効な資産状態の把握の手段となり、弊所においてそのような条項を契約書に挿入することを励行しております。
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(4)違約時の取決め
契約書に、相手方が違約した時に備え、厳格な責任を定めておいたり、迅速に法的手続に移行できるような条項を定めておいたりすることで、相手方が支払を滞った場合に回収を実効的に進めたり、貴社(あなた)の優先順位を高く保つことが可能となります。
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(5)担保・保証の設定
もとより、債務者や関係者の所有する資産に対して抵当権等の担保権を設定することができたり、代表者個人ら関係者らの連帯保証を取り付けることができれば、債務者の不履行時に直ちに担保権を実行したり、保証人らに対して請求することで、実効的な債権回収が実現できます。
また、そのような担保や保証人を押さえられていることが、債務者にとって貴社(あなた)の優先度を高めることにつながり、不履行を抑止し、仮に不履行が生じても任意の支払を行う強い動機となって、重大な回収上のトラブルを防ぐのに重要な役割を果たしてくれます。
なお、保証に関しては、2020(令和2)年4月1日施行にかかる改正民法によって保証人保護のための制度が拡充しました。特に法人の債務者との関係で、その代表者以外の第三者を保証人とする場合には、細心の注意が必要です。 別ページではこの点も含めて解説しています。
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